東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)404号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 本件審決の取消事由第1点について
1 請求の原因四1について
原告は、本願明細書四頁一〇行から一二行までの「らせん翼4の外周縁点の回転面に縦にとおる法線とらせん翼6の外周縁点の回転面に縦にとおる法線との交線または共通法線」との記載は、請求の原因四1の(一)記載のように言葉を補い、語句を訂正して記載すべきところを簡略に過ぎたものであり、本願明細書の特許請求の範囲の欄の一〇頁一八行から二〇行までに記載された「両方のらせん翼外周点の回転面にそれぞれ縦にとおる法線と法線との交線に交わる」との記載は、請求の原因四1の(二)記載のように言葉を補い、語句を訂正して記載すべきところを簡略にすぎたものであり、いずれも説明がつくものである旨主張する。
しかし、成立について当事者間に争いのない甲第九号証の一ないし三、甲第二三号証及び甲第二四号証の一、二によれば、本願明細書中の右個所が、それぞれ請求の原因四1の(一)又は(二)記載のように言葉を補い、語句を訂正して解すべきことは、自明でもなく、本願明細書及び本願図面から明らかでもないことが認められる上、原告主張のように言葉を補い、語句を訂正しても、「外縁点の回転面の円周」、「縦にとおる従法線と・・・縦にとおる従法線との両らせん翼の対向部における交線または共通従法線」及び「縦にとおる両らせん翼の対向部における従法線と従法線との交線すなわち共通従法線」等の意味不明の部分があることは明らかであり、原告の主張は認められない。
2 請求の原因四2について
原告は、本願明細書六頁三行から四行までの「互いに相手のらせん翼4、6の斜面の正面部」との記載は、請求の原因四2の(一)記載のように言葉を補い、語句を訂正して記載すべきところを簡略に過ぎたものであり、本願明細書の六頁六行から一二行までの「らせん翼4、6を高周速で回転して4、6の遠心力で放出する流体の流出分の運動量分量を次第に濃くすることによつて、両らせん翼相互はめあい間隙による流体の漏洩、逆流等を防止できるようにし、4、6のピツチを次第に小さくしてらせん溝の断面積の縮少により吐出圧力を高くしても同時に流体の漏洩、逆流等を防止する能力を更に大きくできるようにし」との記載は、請求の原因四2の(二)記載のような意味であり、いずれも説明がつくものである旨主張する。
しかし、前記甲第九号証の一ないし三、甲第二三号証及び甲第二四号証の一、二によれば、本願明細書中の右個所が、それぞれ請求の原因四2の(一)記載のように言葉を補い、語句を訂正して解すべきこと、あるいは請求の原因四2の(二)記載のような意味であることは、自明でもなく、本願明細書及び本願図面から明らかでもないことが認められる。
しかも、請求の原因四2の(一)記載のように言葉を補い、語句を訂正しても、本願明細書六頁三行から四行までに記載された「らせん翼4、6の斜面の正面部」が具体的にどのような位置をいうのか不明であり、また、請求の原因四2の(二)記載のような意味の説明が加えられても、本願明細書六頁九行から一一行までに記載されたように「両らせん翼相互はめあい間隙による流体の漏洩、逆流等を防止できる」理由が示されているとはいえないことは明らかであり、原告の主張は認められない。
3 請求の原因四3について
原告は、本件審決が「本願明細書六頁下から四行ないし七頁五行に流体の運動が説明されているが、具体的に図示説明されていないため、内容が理解できない。」と指摘する点について、請求の原因四3のとおり、必要な点については具体的に図示説明されている旨主張する。
しかし、本願明細書六頁下から四行ないし七頁五行に記載された流体の運動の説明は、それ自体としても、各種流体がどのように運動し、それによつて何故両らせん翼相互はめあい個所における軸方向間隙およびこれと直角方向の間隙等による漏洩、逆流等を防止できるのか、内容が理解できないし、請求の原因四3の主張を考慮してもそれらを理解することはできない。よつて、原告の主張は認められない。
4 請求の原因四4について
原告は、本願明細書七頁一九行から末行までに記載された「らせん翼斜面の正面部」、本願明細書七頁末行から八頁一行までに記載された「相手らせん翼の迎え角斜面」及び本願明細書八頁八行目に記載の「らせん翼正面側斜面」は、それぞれ請求の原因四4記載のように、言葉を補い、語句を訂正して記載すべきところを簡略に過ぎたものであり、いずれも説明がつくものである旨主張する。
しかし、前記甲第九号証の一ないし三、甲第二三号証及び甲第二四号証の一、二によれば、本願明細書中の右個所が、それぞれ請求の原因四4記載のように言葉を補い、語句を訂正して解すべきことは、自明でもなく、本願明細書及び本願図面から明らかでもないことが認められる上、原告主張のように言葉を補い、語句を訂正しても言葉を補い、語句を訂正した後の記載自体意味が不明であることは明らかであり、原告の主張は認められない。
5 請求の原因四5について
原告は、本件審決が「本願明細書八頁ないし九頁に、境界層に関する記載及びジエツト機に利用した場合の利点に関する記載があるが、境界層がどのように形成され、どのように移行するのか詳しく説明されてなく、ジエツト機における利点についても理論的な説明がないので、これらの記載内容が理解できない。」と指摘する点について、請求の原因四5のとおり、本願明細書の八頁八行から九頁一六行までの記載に言葉を補い、語句を訂正することにより説明がつくものである旨主張する。
しかし、本願明細書八頁八行から九頁一六行までに記載された境界層に関する記載及びジエツト機に利用した場合の利点に関する記載は、それ自体としても、境界層がどのように形成され、どのように移行するのか、ジエツト機に利用した場合にどのような利点があるのか及びその根拠の具体的な説明がないので、内容が理解できないし、請求の原因四5のように言葉を補い、語句を訂正しても、それらを理解することはできない。よつて、原告の主張は認められない。
6 請求の原因四6について
原告は、本件審決が「前記のほかに、本願明細書全般にわたつて作用及び効果が理解できず、従来周知のねじポンプ、例えば英国特許第六二〇六八四号明細書抜萃に記載されたものとの作用及び効果上の差異が不明である。」と指摘する点について、請求の原因四6のとおり説明がつく旨主張する。
しかし、前記甲第九号証の一ないし三、甲第二三号証及び甲第二四号証の一、二によれば、本件審決が前記請求の原因三3の(一)ないし(六)に指摘した部分以外にも、本願明細書全般にわたつて記載された本願発明の作用及び効果が具体的に理解できず、従来周知のねじポンプ、例えば英国特許第六二〇六八四号明細書抜萃に記載されたものとの作用及び効果上の差異が不明であるものと認められ、請求の原因四6の主張を考慮してもそれらを理解することはできない。よつて、原告の主張は認められない。
三1 前記甲第九号証の一ないし三、甲第二三号証及び甲第二四号証の一、二によれば、本願明細書中には、前記のとおり、意味不明、内容が理解できない部分以外から把握することができる本願発明の特徴の概要として、次のような趣旨の記載があることが認められる。
即ち、本願発明は、互いに同方向に回転し、それぞれが流体の入口より出口に向つて外径が同じで、らせん翼のピツチを次第に小さくしたらせん体の一対を、らせん翼が相互に入り込むように、かつ、並列する両らせん体の軸間距離を、少なくとも、本願発明の特許請求の範囲に限定された以上にし、一方のらせん体のらせん翼の外周面と相手らせん体のらせん翼底面との間に「遠心力放射うちつき流出間隙」と呼ばれる間隙を存置するように並列し、並列したらせん体の外周面に沿う内周面を有する外筒内に収容するように形成した「等周速漸減ピツチらせん体を並列に用いた遠心合力調和容積減速軸流型同方向性ねじ圧縮機、ねじポンプ」にかかるものである。本願発明においては、右のように、一方のらせん体のらせん翼の外周面と相手らせん体のらせん翼底面との間に「遠心力放射うちつき流出間隙」と呼ばれる間隙を存置し、らせん体の回転による遠心力で、右間隙に放出される流体の「流出分の運動量配分量」によつて、流体の両らせん翼の間の間隙からの漏洩、逆流等を防止するものである。
そして、右のように、流体の入口より出口に向かつてらせん翼のピツチを次第に小さくしたことにより、らせん溝の断面積を次第に小にし、もしくは小にせずして、ポンプの圧力比又は吐出圧力を大きくし、所要の流量と圧力比を得ようとする場合において、軸長をできるだけ短くできるようにし、ポンプの効率をよくできるようにし、性能を向上できる効果を奏するものである。
2 右のようなポンプ、圧縮機は、一般に複式ねじポンプあるいは複式ねじ圧縮機と呼ばれている物の一種であると解される。
ポンプ、圧縮機は、その機能上、吐出口と吸込口との間に流体の圧力差が生じるから、仮にその複数の回転子(ねじ)の間に間隙があると、その間隙から流体が漏れるため、流体の効率のよい送出、圧縮ができないものであり、一般に、二本のねじを並列に配置した複式ねじポンプあるいは複式ねじ圧縮機においては、隣接する複数の回転子(ねじ)を微小の隙間を保つてかみあわせ、また回転子のねじ山部分とその周囲の外筒の隙間も微小に保つことにより、ねじ溝と外筒と回転子のかみあい部分の間に密封された空間(移動密封部)を形成し、ねじの回転とともに移動密封部がねじの軸方向へ移動することにより、入口で移動密封部に封じ込まれた流体を出口まで効率的に移動させ、圧縮機においてはその間に圧縮する構成がとられていることが本件出願当時技術常識であつたことは、当裁判所に顕著である。
3 本願発明においては、前記1のとおり、並列する両らせん体の軸間距離を、少なくとも、本願発明の特許請求の範囲に限定された以上にし、一方のらせん体のらせん翼の外周面と相手らせん体のらせん翼底面との間に「遠心力放射うちつき流出間隙」と呼ばれる間隙を存置するようにし、らせん体の回転による遠心力で右間隙に放出される流体の「流出分の運動量配分量」によつて、流体の両らせん翼の間の間隙からの漏洩、逆流等を防止するものとされている。
しかし、これは、右2のような、本件出願当時の技術常識に反するものであるから、右のような間隙が存置されてもなお流体の漏洩、逆流等が生じず、ポンプ、圧縮機として機能することが当業技術者が正確に理解できるように本願明細書に記載されていなければ、本願発明の内容が不明瞭で、発明の存在が認められないものとして、旧特許法第一条の工業的発明と認めることができない。
本件審決が、拒絶理由に例示した点として引用する、請求の原因三3の(一)ないし(六)の諸点は、いずれも本願明細書中の、本願発明において前記のような間隙が存置されてもなお流体の漏洩、逆流等が生じず、ポンプ、圧縮機として機能することを当業技術者が理解するのに不可欠の説明にあたる個所の意味が不明あるいは理解できないとするものであるところ、前記二のとおり、これらの点についての本件審決の認定判断を誤りとする原告の主張はいずれも認められないから、本願発明は旧特許法第一条に規定する工業的発明とは認められないとする本件審決の認定判断には誤りはない。
四 本件審決の取消事由第2点について
原告は、本件審決は、全文訂正明細書の提出がないことについて、拒絶理由を通知することなく、そのことを理由に本件審判請求は成り立たないと判断したもので、審理不十分、理由不備があり、違法として取り消されなくてはならない旨主張する。
しかし、本件審決が、全文訂正明細書の提出がないことを理由として本件審判請求は成り立たないと判断したものではなく、審判手続において昭和五五年七月一一日付で通知された拒絶理由によつて、本件審判請求は成り立たないと判断したものであることは、当事者間に争いのない請求の原因三の本件審決の理由の要点から明らかであり、原告の主張は認められない。
五 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。